この話は、グラフホテルが閉館する、最後の半年間に起きたことである。
日本では村上春樹研究でも知られる作家イム・キョンソンによる、ホテルを題材にした珠玉の短編集。年末の閉業を控えた名門「グラフホテル」を舞台に、5人の大人たちが、それぞれの人生の転換点・区切りを迎える出来事が描かれる。
かつての売れっ子映画監督ドゥリが、動画配信サービス向けドラマ脚本のチェックを依頼されホテルで缶詰めに。時代の流れに悩みつつも行き着いた決断とは(「一か月間のホテル暮らし」)。
相手の女性の「フランス映画みたいなことをしたい」という願いをうけ、会社を抜け出してグラフホテルで情事にふけった男だが…(「フランス小説のように」)。
グラフホテルに宿泊していた作家のトンジュが、ふとしたきっかけでドアマンの男から聞かされた純愛と逃避行の物語、その結末とは…(「夜勤」)。
ほか「ハウスキーピング」「招待されなかった人々」の5編を収録する。
著者:イム キョンソン(林慶琁)
韓国ソウルに生まれ、横浜、リスボン、サンパウロ、大阪、ニューヨーク、東京で成長、10年あまりの広告会社勤務等を経て、2005年から専業として執筆活動。著書にエッセイ『母さんと恋をする時』(2012)、『私という女性』(2013)、『態度について』(2015)、『どこまでも個人的な』(2015)、『自由であること』(2017)、『京都に行ってきました』(2017)、『私のままで生きること』(2023)、小説『ある日、彼女たちが』(2011)、『覚えていて』(2014)、『私の男性』(2016)、『そばに残るひと』(2018)、『そっと呼ぶ名前』(2020)、『ホテル物語』(2022)、『言い残した言葉』(2024)ほか多数。歌手でもあり作家でもあるヨジョとは『女性として生きる私たちに│ヨジョとイム・キョンソンの交換日記│』(共著:2019)も刊行(NaverAudioclipで「ヨジョとイム・キョンソンの交換日記」を配信)。邦訳に『村上春樹のせいで│どこまでも自分のスタイルで生きていくこと│』(渡辺奈緒子訳:2020)がある。独立した個としてそれぞれが誠実に、自分らしく生きることをテーマにしたエッセイを多く書き、小説ではもっとも大切な価値観として「愛」を見据え、恋愛を主に扱う。
訳者:すんみ(スンミ)
翻訳家。早稲田大学文化構想学部卒業、同大学大学院文学研究科修士課程修了。訳書にチョン・セラン『屋上で会いましょう』『地球でハナだけ』『八重歯が見たい』(以上、亜紀書房)、キム・グミ『あまりにも真昼の恋愛』『敬愛の心』(以上、晶文社)、ウン・ソホル他『5番レーン』(鈴木出版)、キム・サングン『星をつるよる』(パイ インターナショナル)、ユン・ウンジュ他『女の子だから、男の子だからをなくす本』(エトセトラブックス)など、共訳書にイ・ミンギョン『私たちには言葉が必要だ』(タバブックス)、チョ・ナムジュ『彼女の名前は』『私たちが記したもの』(以上、筑摩書房)などがある。