イヴ・サンローランは20世紀を代表するデザイナーだ。
彼の歴史は、20世紀後半のファッションの歴史そのもの。
若くしてクリスチャン・ディオールの後継者として、
天才デザイナーとして注目を集めたサンローランは、
独立後も次々と革新的なファッションで時代をリードしていった。
彼がこの世に送り込んだ数々の作品はいまや定番となっているが、当時はどれも驚くほど斬新なものだった。
そんなサンローランに影響されなかったファッション・デザイナーなどいない。
本書では、彼の生い立ちからプライベートな生活、コレクションの内容まで事細かに調べ、鮮明に描かれている。周りに守られながら、そのまま大人になってしまった少年。才能、地位、名誉、すべて持ちながら、どこか悲劇的な一面も持ち合わせている。彼は、ひとつの時代の頂点に立った人物。そのファッション、スタイル、そして人間関係は、その時代を象徴している。今でもなお、現役でオートクチュールのデザインを手掛ける彼だが、サンローラン社はさらに時代の流れに沿って、変化を続けている。
オートクチュールからプレタポルテへと変わり行く時代、さらに90年代の巨大ラグジュアリー・コングロマリットに統合されていくファッションビジネスの変貌。1人の偉大なクチュリエを取り巻く環境の変化は、ファッションの歴史、そして私たちの生活や価値観の変化を表してもいるのだ。(宮内 彩)