シリーズ連載
©Melmel Chung
イム・キョンソンは、全身で人生を丁寧に濾過して、真実と真心をそっと取り出すような作家だ。短い文章を書くときも、長い文章を書くときも、エッセイでも小説でも、人がつい目を背けたくなるような領域までしっかりと見つめ、そこで見つけたものを飾らずに言葉にする。洗練されているけれど、決して美化しない。それが20年以上にわたって、韓国で唯一無二の作家として、読者からの信頼と愛情を一身に集めている理由なのかもしれない。
書くものに合わせて姿を変えていく作家だが、愛の光と影に対する探求には、一貫した激情を抱いており、読んでいる私たちの心も一緒に揺さぶられる。ずっと一緒にいる家族への愛も、惹かれずにはいられない恋人への愛も、美しく複雑で、到底要約できない側面をそのまま描き出す才能に、ただただ感心してしまう。
『リスボン日和』は、哀しみと希望について、避けることのできない傷と、かろうじて癒えた場所から生まれる回復について、まるで旅の同行者のように、穏やかに語りかけてくる。旅先で静かに話したことが、長い時間が経っても風景と一緒にふと思い出されるみたいに、何度も読み返したくなる本なのだ。いつか必ず、リスボンで読んでみたい。いつも新しい姿を見せてくれる作家だけれど、今の時点では、イム・キョンソン最高のエッセイとしておすすめしたい。
チョン・セラン(정세랑)
1984年ソウル生まれ。編集者として働いた後、2010年に雑誌『ファンタスティック』に「ドリーム、ドリーム、ドリーム」を発表してデビュー。13年『アンダー、サンダー、テンダー』(吉川凪訳・クオン)で第7回チャンビ長編小説賞、17年に『フィフティ・ピープル』(斎藤真理子訳・亜紀書房)で第50回韓国日報文学賞を受賞。純文学、SF、ファンタジー、ホラーなどジャンルを超えて多彩な作品を発表し、幅広い層から愛される。他『保健室のアン・ウニョン先生』(斎藤真理子訳・亜紀書房)『屋上で会いましょう』(すんみ訳・亜紀書房)などがある。
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